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環境・エネルギー&気になる情報2

環境・エネルギー&気になる情報2

誰も知らないレアメタルの現実(3)

奇跡の中国・イオン吸着鉱
岡部:イオン吸着鉱は、簡単に言えば、何億年もの地球の営みの中で希土類を含む鉱石が雨や風などの作用で濃縮された極めて特殊な鉱床です。レアアースの中でも特に貴重なジスプロシウム、テルビウムなどの重希土類の含有率が高いことで知られています。

 それでもジスプロシウムは濃度で300ppm(0.03%)程度の品位しかありません。耐熱性が求められるネオジム磁石にはジスプロシウムが重量比で数%のオーダーで含まれているので、スクラップの方が鉱石よりも含有濃度はずっと高い。それでも磁石から分離する方が難しく、コストがかかるのが現状です。

 スクラップからジスプロシウムをリサイクルするのに比べて、イオン吸着鉱からジスプロシウムを抽出するのは、とても楽です。鉱体や鉱床に直接、硫酸アンモニウムなどの溶離剤をかけたり、注入したりすれば、貴重なレアアースが選択的に分離されてしみ出してくるのですから。ほかのどのような方法も、このような楽な採掘法にはかないません。

 以前、GEの航空機関係のエンジニアが、「レニウムのリサイクルについて聞きたい」と言って、私を訪ねてきたことがありました。レニウムは、ジェットエンジン用超合金の重要な添加元素として利用されるレアメタルの1つです。このときも私は「ビジネスとして考えるなら、今は、リサイクルはやめときなさい」と答えました。

 これは、携帯電話からタンタルを回収するのと同じで、コストとエネルギーがかかります。いくら貴重なレアメタルだと言っても、優良な鉱山からの採掘、製錬には大抵は対抗でません。

 一度、実際に鉱山の現場を見ると世界観が変わります。

 私が初めて生で見た鉱山は米ユタ州にあるビンガム銅山で、大学院生時代に恩師に連れて行ってもらいました。とにかく、デカイ。当時から「宇宙から見える単一の人工物」だと言われていました。

 ただ、目にしたとき、本当にここまでやっていいのか、という気持ちになりました。銅鉱石の品位は1%以下ですから、掘り出した鉱石は、重量的には結局ほとんどが捨てられています。投入物を含めれば、捨てるものの量の方が圧倒的に多い。多量のエネルギーを投入して地球をむりやり掘り起こして、傷つけて、捨てて、荒らしているように感じました。

Q:鉱山開発に対しては環境汚染や環境破壊を指摘する向きもあります。

岡部:中国では汚染がかなり深刻なようです。中国のイオン吸着鉱では、実際、硫酸アンモニウムを直接土中に注入して、ジスプロシウムなどを抽出しているようです。そのあとはきちんと廃液処理をしない現場もあると思われます。

 米アリゾナ州にある有名なモレンシー銅山の場合でも、採掘した鉱石にではなく、山に直接、硫酸をかけて銅を溶かした溶液を回収する採掘法を利用する場合があります。ただ、このような採掘が許容される現場は、砂漠のど真ん中で人が近くに住んでいません。土壌や地下水の汚染に伴う健康障害を心配しなくてもよいために許されています。途上国の場合だと、許されることと許されないことの線引きが怪しいことがあるので心配です。

Value of Nature
岡部:オーストラリアでもレアアースの採掘計画が進んでいるようですが、豪政府はオーストラリア内での精製は原則許可しない方針です。なぜなら、オーストラリアにあるレアアース鉱石の多くはウラン、トリウムなどの放射性元素を含有するため、精製には放射性廃棄物の発生が伴うからです。つまり、資源国の収入になる採掘はOKだが、国内での放射性廃棄物の処理は認めないというわけです。

 今後は掘った鉱石をどこで精製するかも大きな問題になるでしょう。レアアースのリサイクルも、コストが低い湿式法を使って、海外での実施を模索している日本企業があるようです。

 レアメタルの多くは地球科学的に特異で希少な鉱山から産出されます。偏在は、何億年という地球の営みが生んだ“奇跡”の裏返しでもあるわけです。“Value of Nature”そのものです。特に近年、環境問題への対応から、自動車や航空機、家電製品などの多くの分野で、レアメタルやレアアースの利用が増えています。しかし、そこには地球の奇跡の恵みをタダ同然で都合よく利用しているという意識や、鉱山事業に伴う環境破壊や環境汚染への認識が見事なほど抜け落ちていると私は感じています。

 レアメタルのリサイクルに私が熱心なもう1つの理由は、お金に換算できない「レアメタルの本質的な価値」をきちんと評価するべきだと考えているからです。Value of Nature が高い貴重な鉱物を地中から掘り出して利用する以上は、経済価値がなくなったからといって安易に捨てずに、何度でも利用すべきだという気持ちがあるからです。

《日経エコロジ-》


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